慢性疲労症候群(疲労感が長期に続く時)の漢方治療について


漢方の外来には、疲労感を主訴に来院される方が多くいらっしゃいます。どのような疲労に漢方治療の効果があるかを説明します。

疾病しっぺいによる疲労

どこかに疾病しっぺい(客観的な病気)が隠れていて、それが原因で疲労感を訴える方がいます。

このなかには、癌や白血病、リウマチなど、炎症や腫瘍があることで、体がどんどんと消耗されてしまう疾病と、肝障害、腎障害、甲状腺(ホルモン)の機能低下や貧血など、体の本来の機能が低下している疾病があります。

これらの疾病がある場合は、まずは疲れの原因となっている疾病の治療を優先すべきです。

このような疾病が無いか、体中をよく診察することが大事です。

未病みびょうによる疲労

検査をしても、特に異常がない。診察をしても、あきらかな異常がない。心の病でもない。それなのに、体の疲れがある。こうした状態を未病みびょうによる疲労といいます。未病とは、「いまだ病には至らず」の意味で、疾病にはなっていないけれども、体の状態があまり元気でなくて、このまま放っておくと本当の疾患になってしまう不健康な状態をいいます。

未病と心の病気の区別

未病と心の病気の区別をすることは、専門家が行ってもなかなか困難です。心の病のときは、本人の疲労や家族などの周囲の人の疲労の度合いが明らかに強くて、より重症感があります。未病を放っておいてしまうと、体の疾病になったり、心の病気になったりするので、未病はより軽症な病状と言えるのかもしれません。

疲労の漢方治療について

疾病による疲労や心の病気による疲労の場合は、疲労の原因である疾病や心の病気そのものを西洋医学的に治療しなければなりません。漢方エキス剤による治療だけで完治に導くのは、とても難しいです。もし疲労の原因である疾病や心の病気を西洋医学的に治療しても、疲労が取りきれない時は、漢方治療を併用します。

  • 疾病による疲労の漢方治療→疾病の治療+漢方治療(併用療法が大事)
  • 心の病気による疲労の漢方治療→心の病気の治療+漢方治療(併用療法が大事)

一方、疾病でも心の病気でもない、未病による疲労では、漢方治療がとても有効です。

東洋医学では、疲労をどのように考えるのでしょうか?

疲労の原因は、3つの病態が多くを占めます。気虚、気滞、熱証です。

気虚ききょによる疲労

気虚とは、気が足りない状態をいいます。気というのは、いわゆるエネルギーのことです。例えば、お腹が空いた状態でがんばりすぎると、フラフラになってきます。ご飯を食べて、それをエネルギーに変えて体全体にめぐらします。お腹が空いたまま作業すると、体をめぐっているエネルギーがどんどんと消費されてしまって、エネルギー切れの状態になります。このように、エネルギーが足りなくて、疲れてしまうことを一時的な気虚といいます。

一時的にお腹が空いた時は、食事をとれば、すぐエネルギーが充足されるので、すぐに倦怠感がなくなります。

もし、常に胃腸の調子が悪くて、たとえ食べても、必要な気(エネルギー)を作ることが出来なくなってしまうと、慢性的な気虚(気の不足)になってしまいます。胃腸が弱さによって引き起こされた気虚では、午後になるとだんだんと疲れてきます。食事をすると胃腸に負担がかかるために疲れが増して、特に昼食後に疲れて眠くなってしまいます。胃腸が悪いので食欲がなくて、胃腸の状態を示す舌がぼてっと大きく間延びしたようになり、脈の力も弱くなります。

気虚による疲れは、介護疲れによく見られます。食欲が減って、あまり食べられなくなり、とにかく疲れてしまい、いくら寝ても疲れが取れない状態になります。

気虚の疲労の治療は、胃腸の機能を治しながら、気を補う、六君子湯りっくんしとう補中益気湯ほちゅうえっきとう黄耆建中湯おうぎけんちゅうとうなどを処方します。

気滞きたいによる疲労

気滞とは、気が渋滞することをいいます。気は、必要なところに分配されてはじめて役割を果たします。例えば、手を動かす時、気が手にとどくことで、手を十分に動かすことができて、疲れずに動かすことができます。どんなに気をたくさん蓄えている人でも、必要なところに気が届かなければ疲れてしまうのです。このように気が必要なところに届かなくて、体の一部で渋滞している状態を気滞といいます。

会計の人がお金をいくら持っていても、現場にそのお金を渡さないと、現場が困窮するのと同じことです。

気滞の特徴は、体の中心はエネルギーが満ちているので暖かいのに、手足にはエネルギーが届かないために、冷たくなってしまいます。このため、手袋・靴下型に冷えを感じます。一方、脳は疲れを感じ取って、気を補おうとむしろ食欲は亢進しています。これは、気虚の人が食欲が低下しているのと大きな違いです。また疲れのピークが、朝から午前中(気が一番めぐりにくい時間)で、体を動かしていると気がめぐるため、むしろ疲れが取れてきます。朝にピークがある疲れを感じたら、気滞を疑わなければなりません。

漢方治療をするとき、疲労の原因で一番多いのは気滞です。なぜなら、ストレスが原因で気滞を生じるからです。

現在の世の中は、ストレスだらけです。仕事や人間関係、家事、育児、学校など、そこら中にストレスが溢れています。

こうしたストレスは、東洋医学の五臓のかん[1]
に障害を与えます。肝は、体のなかで、気を必要なところに分配する仕事をしています。ちょうど財務省のような働きをしています。この肝がストレスで障害を受けてしまうと、必要なところに気が分配されなくなってしまいます。このために気滞となってしまい疲れてしまうのです。

気滞による疲労の治療は、かんの機能を治しながら、気を適切に分配する四逆散しぎゃくさん加味逍遙散かみしょうようさん抑肝散加陳皮半夏よくかんさんかちんぴはんげ香蘇散こうそさんなどを処方します。

[1]西洋医学の「肝臓」と東洋医学の「肝」は、違う概念です。

熱証ねっしょうによる疲労

熱証による疲労は、体の一部でエネルギーを過剰に利用されてしまい、エネルギーの消費と熱の産生が同時に起こる病態をいいます。この場合は、いくらエネルギーを補っても、どんどんとエネルギーが消費されてしまうので疲れてしまいます。浪費が多いと貯金が貯まらないのと似ています。

熱証による疲労は、熱を冷ましながら、体内物質のいん(体をクーリングして熱証を予防する物質)を補う治療を行います。例えば、白虎加人参湯びゃっこかにんじんとう温清飲うんせいいん六味丸ろくみがん清心蓮子飲せいしんれんしいんなどを処方します。

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