アトピー性皮膚炎の漢方治療


アトピー性皮膚炎の漢方治療

現在、アトピー性皮膚炎は、ステロイドが適切に使用されるようになって、とてもコントロールが良くなってきました。その一方でいつまでたってもコントロールを出来ない方がいらっしゃいます。ステロイドや保湿剤だけで治療が不十分な患者さまには、漢方薬の併用が有効だと思われます。その理由について、説明したいと思います。

アトピー性皮膚炎の原因は、①皮膚の炎症と、②皮膚のバリアー機能の低下によるものです。①皮膚の炎症に対してはステロイドを使用して、②皮膚のバリアー機能の低下に対しては、保湿剤を使用します。

では、漢方ではどのように治療するかというと、①皮膚の炎症に対して清熱薬、②皮膚の保湿に対して補津液薬を投与します。清熱というのは、熱を清するということで、炎症を取り除くことです。補津液というのは、津液しんえきという体にとって必要な水分を補うということです。つまり、漢方薬が行っていることと、外用薬で行っていることは同じなのです。体の外側から治療するのか、体の中側から治療するのか違いだけになります。

皮膚の構造を解剖的にとらえると、表皮・真皮・皮下組織となります。この中の表皮をさらに細かくわけると、「角質層」「顆粒層」「有棘層ゆうきょくそう」「基底層」と分けることが出来ます。漢方薬で皮膚の治療を行うときは、だいたいどこら辺の層を狙って、清熱をしたり津液を補うかが大切になります。(ここでは、簡略化のために、解剖的な位置と漢方的な層を大まかにあわせて説明します。)

衛分の治療

「角質層」などの表面に近いところに熱があるときは、熱を外に発散させる治療を行います。一番外側の部分を漢方医学では衛分といいます。衛分というのは、一番外側を守っている衛兵みたいな分層(階層)という意味です。衛分に炎症があるときに使用する薬は、辛涼薬や軽清薬や弱い辛温薬です。これらの薬は、発散できなくて表皮に鬱している熱を発汗機能をととのえることで、発散させて外に熱を導いて治療をします。一方、この階層の乾燥を漢方では肺(漢方の概念の肺)の津液不足と考えます。肺の津液を補うには、黄耆などで肺気をめぐらしつつ、補津液薬で潤します。黄耆で肺気がめぐらすと、補津液薬を単独で使用するより広範に潤すことが出来ます。ただし、黄耆には発熱性があるので、発散が出来なくて熱が鬱しているときは、注意して黄耆を使用しなければなりません。(例えば、熱を発散させつつ黄耆を併用するなどといった使い方をします。)

気分の治療

もう少し深い「顆粒層」から「有棘層ゆうきょくそう」あたりに熱があるとき、漢方医学では「気分」に熱があると考えます。「有棘層ゆうきょくそう」は皮膚の免疫反応と関係があって、とても炎症が強く起こるところです。このため、熱も強く発生します。この強い炎症を起こす気分の熱に対しては、清熱と発散の両方の効果がある石膏を使用します。石膏を使うときの皮膚は、熱が強くて、皮膚の表面はやや乾燥した感じになります。このため石膏で熱を取るだけでなくて、保湿もしなければなりません。この階層の乾燥を漢方医学的には胃(漢方概念の胃)の津液不足と考えます。胃の津液不足を補うには、人参などの胃の津液不足に効果のある補津液薬(補胃陰薬)を使用します。(代表的な方剤は、石膏+人参の白虎加人参湯びゃっこかにんじんとうです。)では、同じ気分の階層でも、じゅくじゅくと滲出液が多い時は、どのようにしたら良いでしょうか?そのときは、熱を取りつつ、じゅくじゅくした湿気をとる作用のある清熱燥湿薬(黄芩・黄連・黄柏など)を使用します。どんどんと燥湿してしまうと、反って皮膚のバリアー機能が低下してしまうので同時に潤わさなければなりません。(潤った津液が充分ある皮膚は、バリアー機能が守られています。)体にとって不要な湿気を除去しながら、体にとって必要な水分を補わなければならないのです。このように一見矛盾するときは、葛根のように必要な水分を必要な位置へ移動させる作用の生薬を使ったり、気をめぐらす生薬をつかって津液の巡りを良くすることで治療します。(代表的な方剤は、黄連・黄芩+葛根の葛根芩連湯かっこんごんれんとうです。)

営分の治療

さらに深い「有棘層」から「基底層」までに熱があるときを漢方医学では、「営分」に熱があると考えます。このときは、「透熱転気とうねつてんき」という方法で、気分の階層に熱を追い出しながら、血液の巡りをよくすることで熱を循環させつつ、同時に津液を補う治療を行います。この血液の巡りをよくして、熱を循環させることで、熱を除くことを散血と言います。ただ清熱するだけでなくて散血することが、営分の治療のポイントとなります。「透熱転気」の代表的な方剤である清営湯せいえいとうを加減して使用するのが良いのですが、煎じ薬はなかなかハードルが高いので、温清飲うんせいいん・補中益気湯などで代用します。

陰分の治療

一番深く入って「基底層」の幹細胞に影響がでているようなときは、漢方医学では腎(漢方の概念の腎)に病態があると考えます。このときの代表薬は六味丸で、山薬・地黄などで腎の陰液を補って牡丹皮で鬱した熱を除くという治療を行います。腎を補うことで細胞の分化の根源となる幹細胞の機能を改善することを期待します。(補腎作用のある十全大補湯は再生不良性貧血などにも使用されます。)

アトピー性皮膚炎の場合は、これらのいろんな階層の病態が同時に存在するという厄介な病気なので、どこかに焦点をしぼりながら治療を決定します。このとき、体の中から治療する漢方薬だけでなくて、体の外から治療するステロイドや保湿剤と併用することでより効果的な治療となります。また漢方薬を使用して体の中から治療をすると、ステロイドの減量を期待できます。

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